ニューロリハビリテーションセンター・リハビリテーション科

初代センター長/副院長 原 寛美Dr.

専門

近年、日本の脳卒中医療は、様々な薬剤や治療技術、脳画像解析の進歩などと併せて、最先端機器等をリハビリテーションに併用するニューロリハビリテーションが世界的に注目されています。原寛美先生は、その第一人者で、運動麻痺の機能回復だけでなく、高次脳機能障害の専門家でもあり、脳卒中リハビリテーション全般でご活躍されています。

プロフィール

・京都大学 医学部卒業(昭和54年卒)
・東京大学医学部付属病院 リハビリテーション部医員
・社会医療法人慈泉会 相澤病院 リハビリテーション科医長
・社会医療法人慈泉会 相澤病院 脳卒中脳神経センター副センター長 リハビリテーション統括医長
・医療法人社団敬仁会桔梗ヶ原病院 副院長 高次脳機能リハビリテーションセンター長
・東京リハビリテーションセンター世田谷 センター長

資格

・日本リハビリテーション医学会専門医
・日本リハビリテーション医学会指導医
・日本脳卒中学会専門医
・日本ボツリヌス治療学会 代議員
・日本高次脳機能障害学会代議員
・日本スティムレーションセラピー学会副理事長

趣味

ドライブ、ワイン

モットー

歩猟し知悉すること

藍の都脳神経外科病院ニューロリハビリテーションセンター

脳卒中の発症率は470人/人口10万人・年とされています。急性期における血栓溶解療法や血栓回収術など、治療技術は著しく進歩してきました。しかし多くの方に運動麻痺などの症状が残っており、脳卒中リハビリテーションの重要なテーマは、いかに運動麻痺の改善をはかることができるかにフォーカスがあてられています。
この十数年間で脳卒中後のリハビリテーション治療は、新しい評価法や治療の方法論が導入されて、大きく変化してきました。脳卒中後の脳には、例えば梗塞周辺領域で大脳皮質野mappingの変化や白質神経線維の再生などが、リハビリテーションによって引き起こされることが分かってきました。このような変化が脳の可塑(かそ)性と呼ばれています。脳の可塑的変化を引き出すリハビリテーション領域が、ニューロリハビリテーションと総称され、新しい領域として確立されつつあります。
脳卒中後の可塑的変化を引き出すための脳卒中リハビリテーション理論と技術のポイントを以下に述べます。

下肢機能・歩行の獲得と,上肢手指機能の改善は異なる神経支配

一つは運動麻痺を改善するための方法論が明らかになってきました。脳卒中後に、歩行は獲得できても、麻痺した上肢(手指)はなかなか改善しませんでした。その理由の一つは、下肢と歩行を司る神経回路と、上肢(手指)の機能を司る神経回路は別であり、そのため、個別のリハビリテーションの戦略が必要となるということが明らかになっています。そして重度な上肢(手指)麻痺の改善には、どの程度の時間を要するのか、リハビリテーションが必要とされる期間も分かってきました、それにより、リハビリテーションの方針を決めることができるようになりました。

運動麻痺回復の「Time Window」と「ステージ理論」

2つめは、発症からのリハビリテーション治療の時間的枠組みの重要性を説いた理論として、「Time Window」と「ステージ理論」が明らかにされました。前者は、Nudo(1996)とBarbey(2006)によるリスザルの虚血モデルによる実験によるものです。母指の運動野に限局した脳梗塞モデルにおいて、リハビリの介入を1ヶ月後の遅延介入をした群では、手指運動野の萎縮を取り戻すことができなかったことが明らかにされました、それにより脳の可塑的変化を引き出す視点からは、遅延介入は効果なし(効果が薄い)と結論されました。1ヶ月以内における効果的なリハビリテーション治療が重要であり、「Time Window」(重要な時間的枠組み)として知られるようになりました。
後者の「ステージ理論」は、脳卒中の運動麻痺回復のメカニズムを、急性期、3ヶ月、6ヶ月以後の3つのステージに分けて分析した知見によるものです(Swayer OB、Rothwell JC、Ward NS et al : 2008)。急性期は残存する皮質脊髄路の興奮性に依拠する回復で、1st stage recoveryと呼ばれます。3ヶ月前後には皮質間ネットワークの興奮性に依拠する回復がおこり、2nd stage recoveryと呼ばれます。そして6ヶ月以後も持続するメカニズムは、シナプスの伝達効率の向上によるもので、3rd stage recoveryと呼ばれます(原 寛美:脳卒中運動麻痺回復可塑性理論とステージ理論に依拠したリハビリテーション。脳神経外科ジャーナル 21:516-526、2012)。急性期の1st stage、それに3ヶ月前後の2nd stage、さらに6ヶ月以後も持続する3rd stageと、3つのステージを意識して、それぞれの時期で機能回復メカニズムに依拠したリハビリ治療を継続することにより望ましい運動麻痺の回復が期待されます。プロ野球のクライマックスシリーズも、ファーストステージで勝たなければファイナルステージには行くことができません。

経頭蓋磁気刺激(Transcranial Magnetic Stimulation,TMS)治療

3つ目は、リハビリテーションによる治療効果を引き出すためのニューロモデュレーションという方法論が登場しました。代表的な方法が、経頭蓋磁気刺激(Transcranial Magnetic Stimulation 、TMS)です。脳卒中により損傷を受けた場合、損傷を受けていない大脳からの過剰な抑制のメカニズムが生じていて、それにより運動麻痺の回復が抑制されていることが分かってきました。それに対して経頭蓋磁気刺激(TMS)を用いて非損傷側大脳運動野に対して抑制の刺激を与えることで、この負のメカニズムを是正し、リハビリテーションによる運動麻痺改善を引き出すことが明らかになってきました。我が国において、この方法論を体系的に確立したのが、東京慈恵会医科大学リハビリテーション医学講座の安保雅博主任教授のグループです(安保雅博、角田亘編著:脳卒中後遺症に対するrTMS治療とリハビリテーション。金原出版社、2013)。現在まで慈恵医大リハ科と、その関連施設による1725例の脳卒中後上肢麻痺に対する治療成績が論文として発表されています(Kakuda W, Abo M, et al:Combination Protocol of Low-Frequency rTMS and Intensive Occupational Therapy for Post-stroke Upper Limb Hemiparesis: a 6-year Experience of More Than 1700 Japanese Patients. Transl Stroke Res 2016; 7: 172-179)。また多くのメタ解析とsystematic reviewが明らかにされてきており、脳卒中後運動麻痺に対して、リハビリテーションと併用することで有用な治療方法となってきていることが明らかにされてきています(Zhang L, et al 2017 、Dionisio A et al 2018).

MRI拡散テンソルトラクトグラフィ

従来脳卒中後に生じている運動麻痺の説明は、CTや通常のMRIを用いており、どの程度の侵襲が上下肢の随意性を支配している運動路に生じているかを明らかにすることは不可能でした。そこで大脳白質における神経線維束を可視化する手法としてMRI拡散テンソルトラクトグラフィ(Diffusion Tensor Tractography、DTT)という評価法を用いることが可能となりました。脳卒中の病型別にDTTを急性期に評価して、どの程度の神経繊維が残存しているのか明らかにする論文が多数だされています。中大脳動脈領域の広範囲の脳梗塞群においても神経線維束が残存している場合があり、6ヶ月後の機能転帰が良好であったことも報告されています(Kim EH et al 、2013)。またDTTを用いることにより、たとえ錐体路(皮質脊髄路)が損傷しても、リハビリテーションにより代替えの運動路(赤核脊髄路、皮質網様体路)が形成されて運動麻痺の回復に寄与することが明らかになっています(Lindenberg R et al : 2011)。このようにMRI拡散テンソルトラクトグラフィの評価により、運動神経の損傷と回復の程度・進捗状況を明らかにすることができ、リハビリテーションの戦略に活かすことができる時代になりました。

痙縮に対するA型ボツリヌス毒素治療

脳卒中発症直後には運動麻痺が生じますが、その麻痺した筋に痙縮という筋緊張異常が次第に生じてくることが明らかにされています。脳卒中患者さんの30~40%に生じるとも言われています。筋のこわばり、つっぱりとして自覚され、麻痺の回復の阻害となります。従来は効果的な治療方法がありませんでしたが、2010年からA型ボツリヌス毒素を用いた治療が保険診療で可能となりました。痙縮を来している筋内に投与することで、3ヶ月前後の痙縮軽減効果が得られるようになりました。これにより、本来の運動麻痺の改善に向けたリハビリテーションの集中が可能となりました。
脳卒中後に生じて下肢の内反尖足には、従来は下肢装具を用いて変形を矯正することしか出来ませんでした。しかしA型ボツリヌス毒素の注射を、3ヶ月間隔で反復して投与して。リハビリテーションを継続することにより、内反尖足が改善し、33%の患者さんで下肢装具を外すことができるようになった報告がされています(Hara T et al : 2018)。A型ボツリヌス毒素の注射は、脳卒中後の歩行の再建にもつながることが示されてきています。

下肢装具の進歩

>脳卒中後の歩行の獲得には、多くの患者さんで下肢装具が必要となります。従来の下肢装具は、足関節の動きを制限しており、足関節の底屈が制限されていました。しかし、私達の普段の歩行は、足部はロッキングチェアのように回転しており(ロッカー機能)、立脚期の重心は沈むことなく伸び上がり。前方へ重心が推進していくメカニズムとなっています。そうした歩行機能を、歩行訓練開始の当初からサポートしていくことができる下肢装具の開発が進められてきています。そして、下肢機能と歩行能力の改善に応じて、下肢装具を外していくプロセスも、前述のボツリヌス治療などと併せることで可能となってきました。
以上のような新しい方法論と治療技術を用いて、脳卒中後の運動麻痺の回復に寄与することが、ニューロリハビリテーションセンターの役割となります。
(文責 藍の都脳神経外科病院 ニューロリハビリテーションセンター長 原 寛美)

主な著作・論文

脳卒中リハビリテーション
・原 寛美,吉尾雅春編著:脳卒中理学療法の理論と技術.第3版,メジカルビュー社,2019年
・原 寛美:脳卒中運動麻痺回復可塑性理論とステージ理論に依拠したリハビリテーション.脳神経外科ジャーナル 21:516-526,2012
・原 寛美:エビデンスに基づく経頭蓋磁気刺激(TMS)治療.総論.Int J Rehabili Med 2019: 56: 1-10

書評など
・原 寛美:文学にみる障害者像ー小川洋子著「博士の愛した数式」ー高次脳機能障害の本質を格調高く描き感涙を誘う精緻に織り上げられたドラマ−.月刊ノーマライゼーション 障害者の福祉.2005年7月号

脳卒中後上下肢痙縮に対するボツリヌス治療成績(慈恵医大リハ医学講座との共同研究)

・Hara T, Abo M, Hara H et al : Effects of botulinum toxin A therapy and multidisciplinary rehabilitation on upper and lower limb spasticity in post-stroke patients. International Journal of Neuroscience, 126

・Hara T, Abo M, Hara H et al : Effects of botulinum toxin A therapy and multidisciplinary rehabilitation on lower limb spasticity classified by spastic muscle echo intensity in post-stroke patients. Int J Neurosci2017

・Hara T , Abo M, Hara H et al :The Effect of Repeated Botulinum Toxin A Therapy Combined with Intensive Rehabilitation on Lower Limb Spasticity in Post-Stroke Patients.Toxins 2018

・Hara T et al: Botulinum Toxin Therapy Combined with Rehabilitation for Stroke: A Systematic Review of Effect on Motor Function. Toxins 2019, 11(12), 707; https://doi.org/10.3390/toxins11120707

・Abo M, Shigematsu T, Hara H et al :Efficacy and Safety of OnabotulinumtoxinA 400 Units in Patients with Post-Stroke Upper Limb Spasticity: Final Report of a Randomized, Double-Blind, Placebo-Controlled Trial with an Open-Label Extension Phase.Toxins 2020, 12(2), 127; https://doi.org/10.3390/toxins12020127

・安保雅博,重松孝,原 寛美,ほか:脳卒中後の上肢痙縮に対するA型ぼつりぬ毒素製剤400単位の有効性および安全性ープラセボ対照無作為化二重盲検比較試験(中間報告)−.Prog Med 39:1021−1029,2019

高次脳機能障害

  • 綿森淑子,原 寛美他:日本版リバーミード行動記憶検査RBMT(2002,千葉テストセンター)
  • 原 寛美編著:高次脳機能障害ポケットマニュアル 第3版.医歯薬出版,2015年
  • 原 寛美:高次脳機能障害に対する認知リハビリテーション.日医雑誌 2016:145:1201−1204
  • 原 寛美:記憶障害のリハビリテーション.Brain and Nerve―記憶と忘却に関わる脳のしくみー分子機構から健忘の症候まで.2018年7月増大号
  • 原 寛美:回復期のステージにおける高次脳機能リハビリテーション治療.Int J Rehabili Med 2019: 56: 218-226
  • 原 寛美:評価法の使い方.シリーズ1 総論④ 高次脳機能障害.総合リハ 2020:5:483-489

お知らせ

令和2年2月7日
原寛美先生が「令和元年度東京都脳卒中医療連携推進事業医療従事者 向け研修会」にて講演をされました。

〒538-0044 大阪市鶴見区放出東2丁目21番16号

日本脳神経外科学会専門医研修プログラム研修施設
  • 公益財団法人田附興風会 医学研究所 北野病院連携施設
  • 滋賀医科大学医学部付属病院関連施設
日本脳卒中学会認定教育病院
大阪府災害医療協力病院
 
9:00~12:00
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<受付・診療時間>
 診療日  : 月曜日~土曜日(土曜日は午前中診療)
 受付時間 : 午前 8:45~11:30 午後 13:30~16:30
 診療時間 : 午前 9:00~12:00 午後 14:00~17:00
<面会時間>
 一般病棟:
  平日 午後14:00~20:00 / 土日祝 午前11:00~20:00
 SCU(脳卒中ケアユニット)・ICU(集中治療室):
  平日 午後14:00~15:00 / 午後19:00~20:00
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