脳塞栓に対する脳血栓回収術
病態および治療について
心臓の不整脈の影響で作られる心原性塞栓、頸動脈起始部狭窄のプラークと呼ばれる動脈硬化による塞栓を主な原因として、脳血管の主要な血管が詰まってしまった(閉塞)状態を脳塞栓といいます。この場合、閉塞した血管のより末梢は脳血流が著しく低下しているため急速に脳梗塞という回復できないレベルの損傷が進んでいる状態になっています。
t-PAと呼ばれる薬物療法を行っても確実に再開通が確保出来ない可能性が高く、重篤な後遺症が発生する可能性が高いと判断した場合において、閉塞血管の再開通を目的に脳血栓回収術を施行します。この手技については血管拡張術(マイクロバルーン使用)、吸引するタイプの血栓回収術などを複合的に施行するのが一般的で、当院では原則的に吸引タイプとステントによる牽引タイプを組み合わせたコンバインドタイプでの実施を優先しています。
ただ、若年の患者さんの場合、血管の解離(血管にひびが入る病態)をベースにした主幹動脈閉塞(中大脳動脈や内頸動脈起始部遠位領域など)を起こしていることもあり、その場合はステントといわれる永久留置するデバイスを使用する可能性があります。当院では頭蓋内の中大脳動脈部に発生する解離による中大脳動脈閉塞においては血栓回収後に引き続いてステントを実施出来る体制にしています。また内頸動脈の起始部遠位領域におこる解離については、口径の太い吸引カテーテルやステント型牽引血栓回収を実施した後に頸動脈用ステントを複数本留置することで良好な成績を収めています。
☆執刀担当医師
佐々木庸 矢野達也 森田 小林 岩田 黒田 浅井 重松
急性期脳血管再開通治療 Solitaire(ソリティア)血栓除去デバイス(COVIDIEN 2013年12月より承認) Trevo(トレボ) ProVue(プロビュー)リトリーバー(sryker 2014年3月より承認)
最新の急性期脳血管再開通治療として2013年12月にSolitaire血栓除去デバイス、2014年3月にTrevo ProVueリトリーバーという名の新しい器具を用いた治療が認可されました。
脳梗塞を発症した場合、通常4.5時間以内であればt-PAという血栓を溶かす薬を注射して治療をすることができます。
しかし、4.5時間が過ぎている場合や、t-PAが無効であった場合には再開通を得る方法として血管内手術が必要となります。
SolitaireとTrevoは、そのような患者を対象に急性虚血性脳梗塞(原則として発症8時間以内)を治療する最新の血管内手術器具です。
従来の器具よりも血栓の回収率に優れ、早期の血流再開が望めると期待されています。
当院では2014年7月よりこの器具を用いた治療が可能となりました。
最新の器具を用い、より安全で効果の高い治療を提供しています。
SolitaireとTrevoは、ステント(金属の網目状の筒)が血栓内で広がることで、血栓そのものを絡み取ります。
その血栓をステントごと引き抜くことで血流を再開させます。
実際の治療について
血管造影画像にて、左内頚動脈が閉塞していることが確認できます。
閉塞部を再開通させるため、緊急血栓回収Solitaire治療を行いました
<治療前の血管造影画像>
左内頚動脈に閉塞を認めます
左内頸動脈の閉塞部の遠位端からSolitaireを留置し、確認の造影撮影をします。
その後、Solitaireを回収します
Solitaire施行後の造影画像により左内頚動脈の再開通を認めます。
ただし、まだ左中大脳動脈が閉塞していることも確認できます
引き続き、左中大脳動脈の閉塞部に対しても、Solitaire治療を行いました
左中大脳動脈の閉塞部の遠位端からSolitaireを留置し、確認の造影撮影をします。その後、Solitaireを回収します。
Solitaire施行後の造影画像により左中大脳動脈の再開通を認めます
左内頸動脈と左中大脳動脈に対して、Solitaire治療を行うことにより、閉塞していた血管に血流の再開を得ることができました