内頸動脈起始部狭窄に対する内頸動脈ステント留置術
病態および治療について
内頸動脈は主に脳の前頭葉、側頭葉、頭頂葉という重要な部分を栄養している血管で、その根元の部分である起始部(喉のあたりにあります)の狭窄は将来的に大変広範囲な脳を損傷させ、結果として重篤な脳卒中後遺症を引き起こす潜在的リスクがあります。
その原因はほとんどが動脈硬化によるもので、まれに動脈解離や外傷、炎症、放射線治療(喉頭がんなど)後などによることもあります。
内頚動脈が狭くなると、脳血流が少なくなり脳を損傷させることもあれば、狭くなった血管の壁にできた血液の固まり(塞栓)がさらに遠位の脳血管に流れて詰まって(動脈から動脈への塞栓)脳を損傷します。詰まった血管が幸い自然に再開通する場合、症状は5~10分程度で一端改善する(一過性脳虚血発作)こともありますが、再開通せず脳血流低下から脳損傷(脳梗塞)を起こして、片側の手足の麻痺、痺れ、言葉がしゃべれない、眼が見えにくい、認知症などの様々な症状が現れ、重症の場合には、寝たきりや植物状態、さらには生命の危険を伴うこともあります。
これまでの海外の研究では、過去に頸動脈狭窄に関係した神経症状を起こしたことのある人(症候性狭窄)では、70%以上の狭窄で年間7%~13%、50%以上の狭窄で年間4%~5%の確率で脳卒中を再発することがわかっています。また、一度も症状を起こしたことのない場合(無症候性狭窄症)の場合でも、60%以上の狭窄があると年間2%~3%の確率で脳卒中を発症することが知られています。
手術は従来は全身麻酔による内膜剥離術が主流でしたが、血管の内側から狭くなった部分に金属のメッシュでできた筒(ステント)を入れて、血管を拡げるステント術が主流となっています。ステントはすでに心臓や手足の血管では広く用いられており、内頸動脈に対しても手術時間が短く、また局所麻酔で実施可能なこともあり最近10年間で用いられるようになってきました。
手術の方法は、原則的に足の付け根の大腿動脈から血管を穿刺し、その後カテーテルを使って内頸
動脈起始部にアクセスします。ステントを留置するときに狭窄部に付着している血栓が脳の中に入り込まないように、フィルターと呼ばれるプロテクションデバイスを狭窄部の先に進めて血栓を捉えるような塞栓防止を行ないます。狭窄が強かったり(99%狭窄など)、術前MRI BB法でハイプラークと呼ばれる脆弱な血管構造である場合は、狭窄部の手前でバルーンを膨らませて血流遮断した状態でプロテクションデバイス(フィルターやバルーン)を狭窄部を通過させ、狭窄部から血栓塞栓等が脳血管に迷入しないよう内頸動脈遠位部で展開します。プロテクションが効果を発揮している状態下で、ステント留置前のバルーンによる拡張(口径が広い場合は控えることもあります。)、ステントを留置、ステント後のバルーンによる拡張でバルーンをより広くして血管壁に圧着させます。ステント留置ができたら、捉えた血栓とともにフィルターを回収します。これにより再発は大幅に軽減され、良好な成績を収めています。
☆執刀担当医師
佐々木庸 矢野達也 森田 小林 岩田 黒田 浅井 重松
頸動脈ステント留置術(carotid artery stenting:CAS)
切らずに治す、血管内治療
血管内治療とは、血管内手術とも言われ、血管撮影装置の画像検査をガイド役として、血管の中にカテーテルという細い管を入れて行う手術のことです。
メスを用いない事により、患者様の身体的負担の少ない治療法になります。
頚動脈狭窄症に対するステント留置術
動脈硬化により細くなってしまった頚動脈を、風船のついたカテーテルで押し広げ、その後に、ステントという形状記憶合金でできた筒を内張のように留置する治療です。
術前画像 : 内頚動脈に高度の狭窄を認めます。
術後画像 : 内頚動脈に狭窄は認められません。
実際の頚動脈狭窄症の発見から治療
数年前から両方の上肢にしめつけられる感じがあり、来院時は頭痛もあるとのことで、当院に来られました。
来院時に撮影した頭部MRI・頭部と頚部のMRA画像です。
さらに頚動脈の狭窄部を詳しく把握するため、MRI撮影のBB法(Black Blood法)にて撮影しました。
血管壁に血栓が付着していることが把握できました
上記の画像により、DWI画像により右前頭葉に脳梗塞が指摘され、さらに頚部MRA画像により両側内頚動脈狭窄があり、入院となりました。
また後日、頚動脈ステント留置術(CAS)を行うことになりました
頚動脈ステント留置術中の血管造影にて形態の把握を行いました
3D特殊撮影により狭窄部の長さや太さなどの形態把握を行いました
3D特殊撮影で形態の把握をし、狭窄部の長さや血管の太さを把握することにより、頚動脈ステントのサイズを決めました。
ガイドワイヤーを右内頸動脈に通し、狭窄部に対して、あらかじめバルーンカテーテルを使用し、慎重に、少しずつ拡張しました
頚動脈ステントを留置するための位置を決めました。
手術中は、狭窄部にある血栓が頭部血管に流れていかないように、バルーンなどを使用しています。
最終的にバルーンを縮める前に、血栓吸引カテーテルを用いて血栓の吸引を行います。
頭部血管に血栓が流れていくと、脳梗塞を引き起こすことになるので、細心の注意を払い手術しています。
頚動脈ステントを留置し、さらに拡張用のバルーンカテーテルを用いて、ステント内を拡張させました。
最終の確認の血管造影画像により、頚動脈ステント内が拡張され、血流が確保されていることが確認できました
頚動脈ステント留置前と留置後の画像比較
治療前は血管壁が、凹凸であるが、頚動脈ステント留置後は凹凸部がなく、きれいな血管壁になり、血流も確保されています。
なお、この患者様は14日で退院しました。
退院後も定期的に、頚動脈エコー検査や頭部MRI MRA検査・頚部造影CTA・血管造影検査などを行い、治療効果が十分か、再狭窄がないかを慎重に観察しています